AIに作らせる資料は2つに分ける|提出用と、社内用の率直なメモ
文・編集:ワークデイズ合同会社
AIに「この分析をまとめて」と頼むと、きれいな資料が1部返ってきます。読めば筋も通っている。けれど、そのままお客様に出す気にはならない。かといって、どこをどう直せばいいのかも言葉にできない。
結論から言うと、直す前に、作るものを2つに分けてください。お客様に出す資料と、社内で見るメモです。私たちは広告運用の案件で、同じ分析でも外に出す形と内部で共有する形を別に作っています。1つにまとめようとすると、どちらかが嘘になるからです。
なぜ1つだと嘘になるのか、分けると何が決まるのかを書きます。
それっぽい資料は、雑な資料より始末が悪い
私たちが先にはまったのは、細かくて正しそうな資料でした。
事業計画や予実、細かい数値を、AIが直接読み取れる形(API)で渡せる状態を作り、資料を作らせています。データは十分に渡しました。細かいところまで拾えるようにしています。
出てきた資料は、たしかに細かいものでした。数値が並んでいる。ポイントを1つずつ見れば、いいことも言っている。スライドを単体で見れば、悪くありません。
ところが全体を見ると、お客様に出せるものではありませんでした。それっぽいのに、この資料で何が決まるのかと聞かれると、何も決まらない。 絶妙に使えない、という出来上がりでした。
始末が悪いのはここです。雑な資料なら、誰でも気づいて止めます。細かくて、部分的には正しくて、見た目も整っているものは、そのまま会議に出てしまいます。気づくのは会議のあとです。気づかなければ、中身の薄い資料をもとに判断が進みます。予算の配分も、人の時間も、その資料のまま決まります。
原因は2つに見えて、根は1つ
なぜそうなるのか。私たちの見方では、抜けていたものが2つあります。
1つは、渡したデータに重み付けがされていなかったことです。どの数字が重くて、どれが参考なのかを伝えていない。だから全部が同じ重さで並びます。
もう1つは、誰に出すのか、何のために作るのか、どういう目的の資料なのかという背景を渡していなかったことです。
そして、この2つは別々の問題ではありません。目的が決まれば、何を重く見るかも決まるからです。来月の予算を決める場で使うなら重い数字は決まりますし、期の振り返りなら別の数字が前に来ます。目的を渡していないから重み付けができず、重み付けができないから全部が並ぶ。根は1つです。
人は、書き始める前に背景を持っている
人はどうしているか、と考えると分かりやすくなります。
人が資料を作るときは、書き始める前にいくつか分かっています。なんのために作るのか。どこに出すのか。相手は誰か。その会議は何を決める場なのか。こうした背景があって、そこから逆算して作ります。AIに渡していないのは、この部分です。
たとえば広告の定例報告なら、必要なものはだいたい決まっています。1か月の振り返りがあり、それを踏まえて良かったのか悪かったのかがあり、続けるポイントと改善するポイントに分かれる。そして改善が必要なところは、何をどうするのかまで書く。ここまで決まっていれば、どの数字を前に出すかも決まります。
私たちは、考察を書く様式を決めています。〈変化・懸念・次の一手〉の3点だけ、という形です。様式が決まっていると、毎回どう書くかを考え直さずに済みます。
AIに目的や背景を渡す話そのものは、AIには手順でなく目的を渡すに書きました。
手直しの前に、宛先を決める
「それっぽいのに使えない」とき、原因は文体に見えます。妙にかしこまっている。同じ語尾が続く。一般論で埋まっている。だから直し方も、言葉を普段づかいに置き換える、修飾を削るといった手直しになります。
私たちは原因を別のところに置いています。誰に出すか——宛先が決まっていない文章は、誰にとっても角が立たない形に寄るからです。かしこまるのも、一般論に逃げるのも、読み手が決まっていないからこそ起きます。逆に、誰に出すかが決まれば、どこまで書くか、何を先に言うかは、かなりの部分が自動的に決まります。
だから手直しの前に、宛先を決める。順番の話です。
そして実務では、その宛先が1つではありません。ここから先は、宛先が2つあるときに何が起きるかの話をします。
同じ分析でも、外に出す形と中で見る形は別物
私たちの運用はこうです。お客様に提出する資料は前向きな構成にします。ただし事実は曲げません。そのうえで、社内用の率直なメモを別ファイルに必ず残します。
同じ分析から、2つ作るということです。
なぜ分けるのか。1つにまとめようとすると、どちらかが嘘になるからです。提出用に寄せれば、社内で共有すべき懸念が落ちます。落ちた懸念は、共有されないまま案件が進みます。率直さに寄せれば、お客様が読む資料としては不親切になります。読んだ人は、次に何をすればいいのか分からないままになります。足して割った1つは、どちらの役にも立ちません。
社内向けと社外向けで書き方が違う、という話自体はよく知られています。文体をである調にするか敬語にするか、謝罪の一文を入れるかどうか、といった整理です。私たちが言っているのはその一段手前で、書き方ではなく、どこまで書くかが分かれ目だという話です。
「前向き」は、事実を曲げることではない
提出資料を前向きにする、というのは、悪い数字を隠すことではありません。順番と、どこまで書くかの話です。
私たちは、前向きな構成では、まず何ができているか、次に何をするかを置いています。懸念は落としませんが、打ち手とセットにします。社内用のメモは逆で、懸念から書きます。まだ確かめていないこと、うまくいっていないこと、判断に迷っていることを先に並べます。打ち手が無くても書きます。
この順番の置き方は、私たちがそうしているというだけで、唯一の正解ではありません。決めておくこと自体が要点です。
同じ事実が、順番と書く深さを変えて2つの形になる。 事実そのものは、どちらでも同じです。ここが崩れると、提出資料は「盛った資料」になります。
人が持つのは、その手前と後ろ
2つに分ければ全部AIに任せられる、という話ではありません。
AIに渡しやすいのは、同じ事実を2つの形にするところだと考えています。前向きな順番に並べ替える、率直な順番に並べ替える。指示が具体的になるぶん、ここは任せる範囲を決めやすい部分です。
人が持つのは、その手前と後ろです。手前は背景を決めること。誰に、何のために出すのか、どの数字を重く見るのか。ここを渡さなければ、さっきの「それっぽいのに使えない資料」に戻ります。後ろは、出す前に人が読むことです。特に提出用は、前向きにした結果として事実が曲がっていないかを確かめます。
ここを飛ばすと、2つ作った意味がなくなります。形だけ2つあって、中身は「足して割った1つ」のままになるからです。
なお、決めたことをAIへの指示に書いておけば必ず守られる、という話でもありません。書いた指示がどこまで効くかはAIが指示を守らないのはなぜかに書きました。ここでは、まず分けることだけを扱います。
明日からできること
順番があります。上から詰めてください。
- いま作りかけの資料を1つ選び、その背景を一文で書く。誰に出すのか、どの場面で使うのか、読んだあとで何が決まればいいのか。ここまで書きます。
- その一文をもとに、前に出す数字を3つだけ選ぶ。残りは後ろに置きます。これが重み付けです。
- その一文と3つの数字を、AIへの指示の先頭に貼る。資料を作らせるのは、そのあとです。
- 同じ分析から、社内用のメモを別ファイルで作る。手順3で出てきた資料をコピーして、懸念から書き直すだけで構いません。
4つとも、新しいツールを入れなくても今日できます。
まとめ
AIに資料を作らせて「それっぽいのに使えない」ものが出てくるのは、渡したデータに重み付けがなく、誰に何のために出すのかという背景も渡していないからです。この2つは別の問題に見えて、根は1つです。目的が決まれば、何を重く見るかも決まります。
そのうえで実務では、お客様に出すものと社内で見るものは別物です。1つにまとめようとすれば、どちらかが嘘になります。だから手直しの前に、宛先で分けます。前向きな構成と率直なメモは、事実を変えずに順番と書く深さだけを変えたもので、どちらも同じ分析から作れます。
渡しやすいのは形を2つにするところまでで、背景を決めるのと、出す前に読むのは人の仕事です。